南海トラフ巨大地震への備えとして木造住宅の耐震化が急がれる中、工事の前提となる耐震診断を促そうと、愛媛県内16市町が2016年度から県建築士会と連携し、耐震診断を希望する住民に会が無料や少額で技術者を派遣する事業に乗り出している。同様事業で先行する松前町の効果に着目して新設した県の制度を活用、住民の診断費用や業者選定の負担軽減を図る。
 松前町の派遣事業は09年度に創設。従来は診断費の3分の2(上限2万円)を補助してきたが、7建築事務所でつくる町木造住宅耐震促進協議会と協定を締結し、協議会所属の技術者の派遣を受ける場合は診断費用を無料化した。
 平均約2万5000円かかっていた自己負担がなくなったことで、診断件数は開始前の年1、2件から大幅に増え、15年度は25件に上った。町は「診断を無料にしたことで思いつきやすくなったのではないか。結果が悪いと危機感を持ってもらえるので、耐震工事につながる」と分析。協議会と協力して戸別訪問にも注力し、さらなる利用を促す。
 松前町などの取り組みを受けて県は16年度、県建築士会と連携し耐震診断派遣事業の体制を整えた。県建築士会が技術者を申込者の元に派遣、地元自治体が同会に1件当たり5万円前後を支払う仕組みで、住民負担は多くの市町で評価手数料(3000円または9720円)のみとなる。
 県の制度を活用し西条市は16年度、派遣50件分の診断費用を予算化。1日から派遣を始めた宇和島市では、6日時点で1件申し込みがあった。新たに導入する16市町と松前町を合わせた派遣の予算戸数は280件分。ある町の担当者は「地元業者が忙しいときに近隣から派遣してもらえれば迅速に対応できる」と体制充実にも期待する。
 16年度の導入を見送った大洲、西予、伊方の3市町も地元建築事務所などとの協議を進め、制度導入を検討するという。
 県によると、13年住宅・土地統計調査で県内の住宅耐震化率は推計約75%。耐震診断の15年度の県内補助実績は184件で、高知県の1686件と比べ大きな差がある。耐震工事実績も診断実績に比例し、高知の933件に対し、133件にとどまる。
 20年度までに住宅の耐震化率90%を目指す県は「命を守るのはもちろん、避難路の確保や火災防止になる」と強調。16年度の診断件数目標を従来補助と合わせて400件とし、「手厚い補助で住民負担が減る。誰に頼めばよいか分からない人も気軽に診断でき、相乗効果が期待できる。診断件数の半分は工事につなげたい」としている。